2009年5月7日木曜日

険道327号線

全行程:89.9km

前編

武田尾の湯への誘惑は呆気なく消え去り、その先へと続く県道327号線をそのまま先へと辿っていった。

地図によると、これから先、二重の実線から波線へと変わっていくはず。ということは、幅員1.5m未満の道へと変わることを、それは示していた。
もちろん、こちらはMTBで行くわけだから、それがたとえ1メートル未満であったとしても、別に問題などなかった。
ただ、少しばかり気になっていたのは、福知山線と重なる部分があり、そこに道が表記されていないことと、途中から県道を表す色塗りが途絶えていた事だった。

こんなフラットダートなら、オンロードモーターバイクでも楽勝だな、等と思いながら進んでいくと、ガードレールにその行く手を阻まれた。
おや、間違えたかな、と少しばかり手前にあった分岐へと戻り、もう一方を辿った。
しかし、そちらの道は直ぐに行き止まりとなっていた。

地図には道の表記がある以上、先に進む歩道くらいはあるはず、と再びガールレールで閉ざされた道へと戻った。
そのガードレールの脇から続く踏み跡を辿り、バイクと共に進んでいく。多少やっかいな道ではあるのだが、行けないことはないだろうと判断してのことだった。

だが、この判断は、甘かった、大甘だった。
この道は県道など名ばかりで、野鳥観察用サイトへと向かう人が辿るだけの道でしかなかったのだ。

途中、鎖場に阻まれ、果たしてその先に道があるのかと、バイクを置き去りに先の道を探ったりもした。クリートの付いたシューズは、岩場ではよく滑り、ヒールでしかグリップできないという状況の中で、よくもまぁ、この道を抜けることが出来たものだと我ながら感心する。
たかがポタリングといえども、何があるかわからない。
どんなときでも、トレッキングシューズに細引き、カラビナぐらいは持ち歩かねばならないのか、準備不足故の苦戦であった。


2009年5月1日金曜日

福知山線廃線跡(生瀬~武田尾)

「必ず雨が降ります。ボクなら迷わず家に帰りますね」
との、ササブネさんの言葉を尻目に
「雲の具合を見ながら行ってみます」
と、生瀬の廃線跡へと向かったわけだ。

琴鳴山木元寺を参拝していると、ポツリポツリと雨が落ちだしてきた。
宝塚辺りで降り出したのであればおとなしく引き返したのだが、ここまで来てしまったからには、数多くあるトンネルで雨宿りしながら雨雲をやり過ごせばいいや、傘を差した。






【雨の中、廃線跡を辿っていたら、鎖場に迷い込んだでござるの巻】

”                  告
本地は、当社の私有地で昭和61年8月に廃線した旧線路跡地であり
通行の用に供さず
                  中略
万一、事故、その他が発生した場合においてはその責は負いかねま
すので予めご了承ください。
                         西日本旅客鉄道株式会社”

建前看板を読み、ご了承いたしました、と枕木の埋もれた線路敷きへと歩みを進める。
雨煙る廃線跡。砂利に埋もれた枕木が処処姿を見せる、ほぼフラットなダート路。スリックマウンテンでも余裕で爆走できる路面なのだが、こう雨が酷くては、跨ることすらままならなかった。

やがて現れる一つめのトンネル。
奥にぽつりと浮かんだ出口の明かりと、バイクのライトによってうっすらと浮かび上がる側壁だけを頼りに奥へと進む。
漸く辿り着く出口。ここでしばしの雨宿り。しかし、いつまでもここに黙って居るわけにも行かない。

雨は、尚一層強さを増し、MTBを押し続ける右手の感覚を奪っていっていた。その冷たさは、腕を這い上がり全身に廻る。
走れなくてもいい、ただ、温泉につかりたい。もはや、一刻も早く、武田尾温泉に辿り着くことしか考えられなくなっていた。

ふたつめのトンネルは、途中でカーブでもしているのだろう、出口の明かりすら見ることが出来なかった。
ストーブに火を点し、インスタントラーメンを作る人たちを羨ましくも思いながら、奥へと歩みを進める。
初めのうちこそ、入り口より差し込む光により行く先が分かってはいたが、やがて、その光りも届かなくなる。いよいよ、バイクに取り付けられたポジションランプの微かな光だけが頼りない頼りとなっていた。
トンネルは緩いカーブを画いているらしく、相変わらず出口は判別できない。事実、左側に浮かび上がっていた壁の気配を見失い、いつしか右の壁を辿っていた。
路面も荒れている。枕木が埋もれずに完全に露出しているようで、躓かないように必要以上に脚を上げて歩かなければならなかった。
ふと、遥か後ろに明かりの気配を感じた。しっかりと光量のあるライト。そんな灯火が、こちらの不用意さを嘲笑うような気がして、追いつかれるものか、と歩みを速めた。

漸く雨も小降りとなり、バイクに跨った。そして、凍えた身体を温めようと、がむしゃらに漕いでいく。
額から顎へと汗が伝わり、ぽとりぽとりのフレームに跡をつけていった。最早、温泉でノンビリしよう等という気持ちは失せていた。今は、先へ先へとそれだけを考えていた。

続く